「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理: 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」が発表されました。

骨粗鬆症治療において、歯科治療との兼ね合いがしばしば問題となります。歯科受診した際に、“骨粗鬆症治療をしていると歯科治療ができない”と歯科の先生から説明を受けた、という話、あるいは類似した話はほぼ毎日あります。 当院のブログでは、顎骨壊死/顎骨骨髄炎に関する最近の研究の動向などを何度か取り上げました。今回、顎骨壊死検討委員会ポジションペーパーが発表になりましたので、お伝えします。 大きな流れとしては、以前から説明しているように、骨粗鬆症治療について、過度に心配する必要はないという内容に変更になっています。また骨粗鬆症治療薬が病気のメインの原因ではないことや骨粗鬆症治療のメリットも考え全体として治療すべきという流れになっています。 顎骨壊死は、骨粗鬆症治療を受けていない人でも歯周病などを背景に生じることがあります。骨粗鬆症治療薬の中でもビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤では注意を要するとういうことになっていました。ただ、院長が過去に発表した論文も一つの契機となり、デノスマブ製剤を止めたりする方が、全体としてリスクは大きいという流れになっていました(今回のポジションペーパーでは、院長が作成した論文も引用されております)。実際に診療している立場では、骨粗鬆症治療に伴う顎骨壊死自体の弊害より、不適切な説明のために治療を止め、その後、骨折を生じることの方が、歯科の先生には失礼ながら問題だと思います(顎骨壊死自体は大変な状態になることがあります。ただ、骨粗鬆症治療薬で生じる顎骨壊死、あるいは重症化する顎骨壊死の頻度が、そこまで心配するほど見合っているのかには疑問があります)。また当院では、心配されている患者様に顎骨壊死の病気の説明をするため、多くの時間をかけています。 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023の内容を抜粋して紹介します。抜粋箇所は院長の好みですので、切り取りであることを理解して読んでください。略語については()で日本語をつけています。 抜歯のみが顎骨壊死のきっかけではない。 「抜歯をはじめとする侵襲的歯科治療は、従来から MRONJ (薬剤関連性顎骨壊死)発症の最大のイベントとして注視されてきた。しかし抜歯の適応となる重度の歯周病や根尖病変などの歯科疾患の多くは、すでに顎骨に細菌感染を伴っていることが多く、最近では抜歯だけが MRONJ 発症の主たる要因ではないといわれている。本委員会では、すでに抜歯前に潜在的に MRONJ を発症しており、抜歯によって MRONJ が顕在化するケースの存在に注意喚起する。」 p10より 抜歯で顎骨壊死が生じると理解されている先生もおられます。しかし、顎骨壊死は局所の細菌感染症が大きな原因です。そこに抜歯などの処置が加わり顕在化することが想定されています。もちろん、抜歯時に局所細菌感染を生じて、顎骨壊死になる場合もあります。細菌感染が重要であることはこの10年の研究で繰り返し示唆されています。 抜歯前の予防的休薬については、あまり必要性がない。 「現状においては休薬の有用性を示すエビデンスはないことから、委員会として「原則として抜歯時に ARA (ビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤)を休薬しないことを提案する」。P15より 現状では、骨粗鬆症治療薬休薬のメリットを示すエビデンス(証拠、根拠)が乏しいことから、過去に提案があった休薬に対しては、むしろ“休薬しないことを提案する”、となっています。骨粗鬆症治療を休薬するデメリットを示す論文もいくつもあることから、根拠に乏しい“抜歯の前に休薬しましょう“という意見は後退しています。 また、抜歯時の予防休薬に関して、ビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤が取り上げられていますが、その他の薬剤は大きな話題にもなっていません。「テリパラチド連日製剤が MRONJ の症状を軽減あるいは治癒させるという報告が散見される」とも記載されています。テリパラチド製剤は、顎骨壊死を生じさせるどころか(マイナスになる)、改善する可能性がある(プラスになる)とも記載されています。ところが、日々の診療では、こういった薬剤にも休薬が必要と説明を受けている患者様に会うこともしばしばあり、対応に苦慮しています。 今後も、研究などで新しいデータが出てこれば、治療のあり方は変わっていきます。当院でも情報収集に努めていきたいと思います。歯科の先生方と協力しながら治療に当たりたいと思います。 なお、ブログを読まれている専門職の方については、以下のリンクを貼ります。どなたも読める内容ですので、このブログを契機に一読して頂けましたらと願います。 https://www.jsoms.or.jp/medical/work/guideline/

2023.07.07

整形外科で見る他科疾患について

当院は整形外科ですので、患者様の大半は整形外科が担当する病気をお持ちの方です。と言っても、例えば、“痛みで来たけど、実は別の科で扱う病気だった”や“歩行がしにくくなって受診したけど、実は脳の病気だった”、ということはしばしば経験します。今回は、無症状だったけど、当院で偶然、整形外科以外の病気と気付いた病気について紹介します。 ●原発性副甲状腺機能亢進症 当院では骨粗しょう症治療を熱心にしています。骨粗しょう症の診断の際には、自身の骨折歴の確認や家族の骨折歴の確認、骨密度検査が欠かせません。また血液検査でも骨の状態を把握したりします。その過程で、別の病気があるために骨粗しょう症を発生しやすくなっている、いわゆる二次性骨粗しょう症の確認もしています。副甲状腺機能亢進症は二次性骨粗しょう症を発生させる代表的な病気です。この病気は、人間の首に左右2つずつある副甲状腺の異常で、4つの副甲状腺のどこがおかしくなり、副甲状腺ホルモンの分泌が異常に増えます。その結果、骨が弱くなったり、結石を生じやすくなったり、カルシウム濃度が上がります。血液検査をして偶然カルシウム濃度が高いことに気づく方には、この病気にかかっている人が多くいます。副甲状腺機能亢進症の患者様の中には、副甲状腺ホルモンを異常に分泌する腫瘍を形成している患者様もいます。当院では骨粗しょう症の治療開始時に、カルシウム濃度や骨代謝マーカーの測定をしていますので、この病気に気づきやすくなります。当院では2~3カ月に1名は副甲状腺機能亢進症を疑う患者様を見つけます。当院で発見する場合、無症状の方が多く、内分泌内科に紹介しています。当院で疑った患者様の転帰を調べていると、残念ながら、最終的には手術治療を行うことが多いようです。 ●動脈瘤や動脈瘤解離 大動脈は心臓からでる太い血管です(ホースのようです)。大動脈は樹木のように細かく枝分かれしながら、体のすみずみまで血液を運んでいます。大動脈瘤は、この大動脈(通常は20~25㎜程度)が「こぶ」のように病的にふくらんだ状態(30~40㎜以上)を言います。原因は様々ですが、ひどいと動脈が破裂するために注意を要します。なぜ、動脈瘤が整形外科で見つかるかというと、背骨のレントゲンやMRIを撮影するからです。特にMRIでは血管の太さも測定できるために、動脈の太さが35㎜以上になっていたり、以前に撮影した時よりより動脈瘤が大きくなっている場合は専門医を紹介しています。手術の基準は、施設により異なると思いますが、動脈瘤が大きくなっているものや動脈瘤が40㎜以上になると破裂して死亡するリスクも高まるため、手術も検討されるようです。動脈瘤は年に1名程度、紹介しています。 その他、様々な病気が見つかることがあります。なぜ、何度も骨折するのか、どうしてこういう歩き方をするのか、どうしてこんな症状を訴えるのかなど、疑問に思った時に極力調べたり、整形外科の先生に相談したり、他科の先生に紹介することで、問題を解決できたりします。そのことが学習に繋がります。実は、今回取り扱った副甲状腺機能亢進症は、ある時に疑問に思ったことがあり、教科書を読んでいる中で、血液検査をして、カルシウム濃度が高い人に副甲状腺機能亢進症が多いということを知り、カルシウムが高い患者様を見つけたら、検査を追加するようになりました。その結果、副甲状腺機能亢進症と診断される患者様が増えました。副甲状腺機能亢進症も経験を積むうちに、“こういった患者さんでも疑った方が良い”、という、ノウハウができてきます。今後も、勉強を絶やさず、今気づいていない病気にも気付けるようになりたいと考えています。

2023.05.21

備品紹介

当院は開院し、4年が経過しました。追加した備品も多くありますが、開院時からあるものに関しても傷みもあり、適宜修理や交換してきました。今回はカウンターにある3つの椅子を交換しました。古いものは今後修繕して、再度配置するか思案中ですが、布の張替えにも時間を要すために、新しいものを購入しました。以前のものより座り心地は硬いですが、お手入れがしやすい椅子になりました。 カウンターのコミックスの一部です。スペースの問題もあり、時間の経ったものは別の場所に保管しています。 リハビリ室のスツール(玄関椅子)は破損しましたので、交換しました。安定性のあるものを選びました。 リハビリ室にある小さな子供に人気の玩具です。知的玩具と呼ばれるもので、磁石が中に入っており、想像力を高めるそうです。左のものは以前からあり、お子さんの評判も良く、今回、左の玩具を追加しました。大人気の“ノラネコぐんだん”のボックスに入っています。待ち時間に利用していただき、お子様の発達の一助になればと思っています。 今回は備品の紹介でした。コミックスは患者さんの意見を伺い配置しています。スペースに限りがありますが、また、お話を伺い変更することもあると思います。

2023.05.06

オスタバロ

2023年1月にアバロパラチド酢酸塩(商品名;オスタバロ皮下注カートリッジ1.5mg、以下オスタバロ®)が発売になりました。この薬剤は、ヒト副甲状腺ホルモン関連タンパク質の一つで、以前から販売されているテリパラチド製剤と類似した特徴のあるお薬です。 オスタバロ®の優れた治療成績は2016年にはJAMAという雑誌に報告されております(Miller PD et al. JAMA 2016)。また、2022年にはJCEMという雑誌に、日本人を対象とした試験結果も掲載されています(Matsumoto T et al. JCEM 2022)。非常に優れた治療効果があります。 オスタバロ®は、自己注射製剤です。テリパラチドと呼ばれる製剤も自己注射製剤です。保険での適応は“骨折のリスクの高い骨粗鬆症(いわゆる重症骨粗しょう症)”。重症骨粗しょう症と考えられる状態の代表例を挙げると、 ・人生で転倒や低い高さからの転落を契機に生じた骨折が2ヵ所以上ある(打ち方が悪かったなどは基本的に考慮しません) ・転倒や低い高さからの転落を契機に生じた骨折が1ヵ所+骨密度がYAM(若い人との比較)で65%未満 ・背骨の骨折で、その潰れ方がひどい ・骨密度がYAM60%未満 などです。 ただ、最近では、骨折リスクに時間軸も取り入れる考え方が導入されつつあります。骨折後1年以内や2年以内に再度骨折する可能性が高いことを結論付ける報告が度々されています。そのため、骨折後の1-2年以内は危険なので、骨折直後には、より強い治療をしましょうという考えです。 オスタバロ®は18ヵ月の治療期間が決められており、それ以降は他剤での治療継続が必要です。治療をやめると、しばらくすると治療効果は消えてしまいます。これは、オスタバロ®に限らず、骨粗しょう症の他の薬剤でも、あるいは骨粗しょう症以外の薬剤でも同じです。治療効果は一生続くわけではありません。 当院では、重症骨粗しょう症患者さんには重症骨粗しょう症用の薬剤を説明しています。現在、発売されている重症骨粗しょう症向けの薬剤は、全て注射製剤です。重症骨粗しょう症の患者様に重症骨粗しょう症向けの注射製剤を勧めると、患者様から、“内服では駄目なのか?”という質問をほぼ毎回頂きます。私も注射は嫌いですので、内服と注射の効果が同等であれば、内服薬の方がはるかに利便性は高く、一般的に安価ですので内服薬を勧めます。現時点では、残念ながら、治療効果は注射薬の方が勝っています。今回案内したオスタバロ®も含め、将来これを凌駕する、あるいは凌駕しなくとも同等の内服薬が、より安価に発売されれば、既存の注射薬の大半は市場からの撤退を迫られると思います。実際、他領域の薬剤で、効果の強い内服薬が発売され、注射薬の販売が終了しているものは多くあります。自己注射製剤が販売されている理由は、自己注射でないとできないからです。テリパラチド製剤やオスタバロ®はこまめに注射での刺激が必要で、そのため自宅などで行って頂く必要があります。オスタバロ®は、販売されて間もないですが、非常に優れた骨折予防効果や骨密度増加効果が明らかとなっており、既に海外を中心に治療成績についての報告が豊富にあります。私自身も以前からオスタバロ®に関する論文を読み、薬理作用、効果や副作用については把握しております。 当院では、骨粗しょう症治療は特に熱心にしております。もし、記事を読んで、ご自身が重症骨粗しょう症に該当しており、薬剤について相談があればお越しください。

2023.04.30

クリニック工事について

先日、クリニックの改修工事を行いました。2月下旬と3月下旬の二期工事で行いました。東面にある大きなガラスのメンテナンス、レントゲン検査などの際に使用する更衣室の改修です。その他、スタッフが使用する場所にも不便なところがあったので改修工事を行いました。少しでも良いクリニックになればと、改善できるところがあれば、適宜工事を行っています。  足場を組み、ガラスのメンテナンスを行いました。 工事中の更衣室1です。カーテンを外し、床カーペットにはタオルを引いています。   工事後の更衣室1です。以前はカーテンタイプでしたが、今回はドアタイプに変更しました。 通路から見るとこんな感じです。戸がV字に中に折れます   更衣室2の工事中の様子です。カーテンを外しています。    更衣室2の工事後の様子です。カーペットを張り着替えやすくしました。

2023.03.28
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