論文が発表されるまで
今回は、学術的なことをテーマに書かせていただきます。院長は学術的な活動にも興味があり、過去に多くの学会発表や論文発表をしました。論文に関しては開業して1年目に英語論文を発表し、その後は、和文論文を年に1本程度発表しています。論文に馴染みがない方もいます。医師としても重要な研究に関して、今回は、論文が世の中に発表されるまでについて紹介します。
論文は研究結果を発表する場の一つです。研究は料理などと一緒で、準備が大切です。どういう論文を書くかを急に決める訳ではなく、普段の診療から様々なことを考え、発表できるための準備をしています。例として、開業して1年目に論文したことについて述べます。
この論文では、ある患者さんについて、その患者さんの経過が、世界中の骨粗しょう症治療に極めて大切なことが生じていることに気づくきました。たった一人の患者さんですが、その方に起こった経過が、世の中の診療にどのような影響を与えるに気づき、それを報告しました。一人の患者さんの経過を報告することを一例報告と言います。通常、一例の報告では、普遍的なことが言いにくいため、エビデンスレベル(臨床研究の信頼性)が低いとされています。しかし、前述したように、その患者さんの経過には骨粗しょう症治療に重要な影響を与えることが含まれていることに気づいたために論文にしました。私が指摘した通り、この方の経過は、世界中の骨粗しょう症治療に影響を与えました(本邦の顎骨壊死のポジションペーパーにも掲載されています)。大柄な言い方ですが、私が勉強していなければ、その方の経過がどれくらい大切かにすら気づかなかったと思います。本研究結果は、有名な骨粗しょう症の専門誌に掲載されました。
このように、論文が成立するためには、論文を書く人に知識がある、そして調べるために準備する(例えば、骨粗しょう症の論文作成では体重なども関係することが多々ありますが、どうしても普段の診療では漏れていることが多く、そういったことを把握しておくなど)、発表するために努力するなど多段階の準備が必要です。そのため、今まで論文を書いたことがない人が、有名雑誌に突然掲載されることはほぼないです。
次に、実際にテーマを決めて論文を作成します。テーマも、骨粗しょう症治療においてどういったことがわかっていて、どういったことがわかっていないか把握していないと論文が書けないです。そのためには勉強が必要で、そういった勉強をしているから専門家になるわけです。多くの分野で専門家になることは、人の時間が限られている以上難しいと思います。
テーマが決まれば、論文は英語で書くか日本語で書くかを考えます。英語論文は世界中に読者がいるために、多くの人に読んでいただけますが、やはり外国語なので面倒です。また、審査(査読)が厳しく、掲載されるためにはオーデションのように審査に合格しなければなりません。一流紙になればなるほど、投稿者が多く、そのクオリティーも高いので審査レベル(オーディションのレベル)が高いと言えます。
さて、現在作成中の論文があります。現在の論文では、ある薬剤がどういう人に効きやすいか、治療開始時の因子を検討しています。普段の治療の中で感じる疑問を調べました。データをまとめる作業に時間がかかりますが、現在している研究は、より確かな情報を届けるために、多くの施設からのデータを頂き、それを私が主となり解析しています。それぞれの施設では、それ以前に多くの施設内の審査などが行われています。私が論文作成を開始したのが6月ごろです。データの取りまとめや論文執筆に時間がかかっていますが、ようやく形が出来上がり、現在は、論文を英語の専門家に見てもらい添削を受けています(日本人が書く論文ですので文法や英語の使い方が間違っていないか確認してもらっています)。こういったことをする専門の業者さんがいます。その後、共同著者の先生方に、最終確認をしていただき、いよいよ投稿になります。
論文を掲載する雑誌にはおおよその格付けがあります。できるだけ、まず格付けの高い雑誌に投稿します。それは、読者が多く、論文が多くの人に読まれることや、雑誌にはインパクトファクターという点数があり、大学などで活動する先生には、特にその点数が大切だからです。ただ、やみくもに格付けの高い雑誌に投稿することが良いわけではありません。雑誌ごとに投稿規定があり、Reject(不採用)になると、その都度、次の雑誌の投稿規定に準じて論文を再調整する必要があります(結構面倒です)。また、投稿するたびに雑誌社の時間を頂きますし、雑誌社とのやり取りにも時間がかかります。論文は鮮度もありますので、自身の論文がAccept(採用)されそうな雑誌の中で、格付けの高い雑誌に初回投稿することになります。今回の論文は、共著の先生方とも相談する必要がありますが、今回の論文は準備ができれば、Osteoporosis Internationalに初回投稿しようと考えています。Osteoporosis Internationalは骨粗しょう症を扱う専門誌の最高峰の雑誌の一つです。なかなか厳しいかなと思いながらも、採用されるという信念がないと駄目なので、結果を信じて投稿してみる予定です。投稿は10月中になると思います。
雑誌に掲載されるまでには、長い道のりがあります。まず、雑誌の偉い方が簡単に読んで、査読(本格的な審査)に回るか決定します。最初の関門で不採用になることもしばしばです。その後、複数の査読者に回り、論文の評価を受けます。それぞれの査読者が自分の意見を添えて、雑誌の偉い方に返事を返し、それらの意見をみて雑誌に採用される見込みがあるか決まります。採用される見込みがあれば、各査読者からの意見を添えて、投稿者のもとに返事がきます。各査読者からの意見はそれぞれ5-15個程度あります。査読者の意見はより良い論文にするための貴重な意見ですので、それに一つ一つ丁寧に返答し、同意できるところは修正し、同じ雑誌に再投稿します。これを2-3回繰り返し、上手くいくと採用になります。査読される先生の決定、査読される先生が査読に要する時間、質問に対して再度データ解析をし直す必要があることもあり、採用されるとしても最短でも2カ月程度はかかることが多いです。途中までやり取りをして不採用になると、次の投稿に至るのに時間がかかります。3-4雑誌の投稿をして採用になることなどざらです。そうすると、掲載が決まるまでに半年以上かかることもあります。
今回の論文は2-3カ月の旅になるかもしれないですし、半年経過してもどの雑誌にも採用されていないかもしれないです。無事採用されると、採用決定後、数カ月以内に雑誌に掲載されます。そして3年間位は特に読まれる頻度が多いです。
論文作成の面白みの一つは、論文を書く過程で多くの論文を読み勉強になることです。そして、自身の論文が、自分が思った以上に評価されない場合もあれば、たまにですが、思ったより評価される場合があります。また、論文により、世界がより良い方向に変わればと思うとワクワクします。
また、結果がわかれば報告しますね。