「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理: 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」が発表されました。

ブログ 2023年7月7日

骨粗鬆症治療において、歯科治療との兼ね合いがしばしば問題となります。歯科受診した際に、“骨粗鬆症治療をしていると歯科治療ができない”と歯科の先生から説明を受けた、という話、あるいは類似した話はほぼ毎日あります。

当院のブログでは、顎骨壊死/顎骨骨髄炎に関する最近の研究の動向などを何度か取り上げました。今回、顎骨壊死検討委員会ポジションペーパーが発表になりましたので、お伝えします。

大きな流れとしては、以前から説明しているように、骨粗鬆症治療について、過度に心配する必要はないという内容に変更になっています。また骨粗鬆症治療薬が病気のメインの原因ではないことや骨粗鬆症治療のメリットも考え全体として治療すべきという流れになっています。

顎骨壊死は、骨粗鬆症治療を受けていない人でも歯周病などを背景に生じることがあります。骨粗鬆症治療薬の中でもビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤では注意を要するとういうことになっていました。ただ、院長が過去に発表した論文も一つの契機となり、デノスマブ製剤を止めたりする方が、全体としてリスクは大きいという流れになっていました(今回のポジションペーパーでは、院長が作成した論文も引用されております)。実際に診療している立場では、骨粗鬆症治療に伴う顎骨壊死自体の弊害より、不適切な説明のために治療を止め、その後、骨折を生じることの方が、歯科の先生には失礼ながら問題だと思います(顎骨壊死自体は大変な状態になることがあります。ただ、骨粗鬆症治療薬で生じる顎骨壊死、あるいは重症化する顎骨壊死の頻度が、そこまで心配するほど見合っているのかには疑問があります)。また当院では、心配されている患者様に顎骨壊死の病気の説明をするため、多くの時間をかけています。

顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023の内容を抜粋して紹介します。抜粋箇所は院長の好みですので、切り取りであることを理解して読んでください。略語については()で日本語をつけています。

  • 抜歯のみが顎骨壊死のきっかけではない。

「抜歯をはじめとする侵襲的歯科治療は、従来から MRONJ (薬剤関連性顎骨壊死)発症の最大のイベントとして注視されてきた。しかし抜歯の適応となる重度の歯周病や根尖病変などの歯科疾患の多くは、すでに顎骨に細菌感染を伴っていることが多く、最近では抜歯だけが MRONJ 発症の主たる要因ではないといわれている。本委員会では、すでに抜歯前に潜在的に MRONJ を発症しており、抜歯によって MRONJ が顕在化するケースの存在に注意喚起する。」 p10より

抜歯で顎骨壊死が生じると理解されている先生もおられます。しかし、顎骨壊死は局所の細菌感染症が大きな原因です。そこに抜歯などの処置が加わり顕在化することが想定されています。もちろん、抜歯時に局所細菌感染を生じて、顎骨壊死になる場合もあります。細菌感染が重要であることはこの10年の研究で繰り返し示唆されています。

  • 抜歯前の予防的休薬については、あまり必要性がない。

「現状においては休薬の有用性を示すエビデンスはないことから、委員会として「原則として抜歯時に ARA (ビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤)を休薬しないことを提案する」。P15より

現状では、骨粗鬆症治療薬休薬のメリットを示すエビデンス(証拠、根拠)が乏しいことから、過去に提案があった休薬に対しては、むしろ“休薬しないことを提案する”、となっています。骨粗鬆症治療を休薬するデメリットを示す論文もいくつもあることから、根拠に乏しい“抜歯の前に休薬しましょう“という意見は後退しています。

また、抜歯時の予防休薬に関して、ビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤が取り上げられていますが、その他の薬剤は大きな話題にもなっていません。「テリパラチド連日製剤が MRONJ の症状を軽減あるいは治癒させるという報告が散見される」とも記載されています。テリパラチド製剤は、顎骨壊死を生じさせるどころか(マイナスになる)、改善する可能性がある(プラスになる)とも記載されています。ところが、日々の診療では、こういった薬剤にも休薬が必要と説明を受けている患者様に会うこともしばしばあり、対応に苦慮しています。

今後も、研究などで新しいデータが出てこれば、治療のあり方は変わっていきます。当院でも情報収集に努めていきたいと思います。歯科の先生方と協力しながら治療に当たりたいと思います。

なお、ブログを読まれている専門職の方については、以下のリンクを貼ります。どなたも読める内容ですので、このブログを契機に一読して頂けましたらと願います。