骨粗しょう症の勉強会に参加しました

先日、骨粗しょう症の勉強会に参加しました。参加した勉強会は骨粗しょう症の専門の先生向けのもので、三重県内では私も含めて2名の参加者でした。発表される先生から、最新の研究内容の紹介や海外を含めた新しい知見の解説をして頂きました。少し紹介させていただきます。 さて、近いうちにアバロパラタイドという新たな骨粗しょう症治療薬が使用可能になります。これは自己注射薬で、すでに海外での優れた成績が報告されています。このように骨粗しょう症分野でも、新しい薬剤、新しい考え方が出てきます。 背骨の骨折後、再度、背骨の骨折が生じやすいことはよく知られています。背骨に限らず、骨折は一度生じると、次が生じやすくなることから、“骨折の連鎖”、“骨折のドミノ”と表現されています。“期間”という観点から見ても、背骨の骨折を生じて1年以内に再度背骨の骨折が生じやすいことも知られていました。最近のトレンドとして、骨折直後には骨折が生じやすいという研究成果がいくつも報告されています。”Imminent fracture risk (差し迫った骨折リスク)”というワードが使用されるようになっています。少し論文を紹介します。 ①骨折した1年以内には約8%の人が、2年以内には約12%の人が次の骨折を経験する(Wong RMY et al. Osteoporosis Int 2022)。 ②手首の骨折後4年以内に14%の人が次の骨折を経験する、骨折部位としては背骨が47%、手首が37%などであった(Jung HS et al. Osteoporosis Int 2021)。 ③骨盤骨折後2年以内に41%の人が次の部位の骨折を生じていた(Smith CT et al. JBJS Am 2021)。 これらは最近報告されたものです。こういった情報もあり、重症の骨粗しょう症患者さんには、より治療効果の高い骨形成促進薬をまず使用しましょう(Anabolic first)という考え方が広がりつつあります(Curtis EM et al. Aging Clin Exp Res 2022)。つまり、最初に強力な治療をしましょうという考え方が広がりつつあります。病気が変わりますが関節リウマチの治療の歴史も今の骨粗しょう症治療の歴史に似ています。20年以上前だと思いますが、その頃は弱い治療から始めて、徐々に強い薬にしていきましょうという考え方でした。私が医師国家試験を受ける20年前には、そういった考え方は転換期にあり、できるだけ早くリウマトレックス®というような強力な薬剤を使用しましょうとなっていて、今やそれが当然となっています。20年間で関節リウマチの治療薬は多くの種類が使用できるようになり、治療成績が飛躍的に向上したこともあり治療方法(治療戦略)は20年前とは全く異なっています。今後、骨粗しょう症に関する研究が進んでいくと、最初にできるだけ強い治療をしましょうという概念が当たり前になるかもしれません。 勉強会では多くの内容に触れられていました。もう一つ、皆さまに紹介させていただきます。それは、顎骨壊死(顎骨骨髄炎)と骨粗しょう症治療の関係についてです。10年以上前に抜歯を行う時に、骨粗しょう症治療薬をお休みしましょうという考え方がありました。当初は抜歯+骨粗しょう症治療薬が、顎骨壊死(顎骨骨髄炎)の発生に関係するのではと考えられていました。明確な根拠もなく出てきた概念で、これが急速に広がったことに、今から考えると恐ろしさすら感じます。その頃でさえ、ビスホスホネート製剤の性質上、2-3カ月休むことがどのような効果をもたらすのか疑問の声もありました(この薬剤は、すぐには効果が切れません。そのため2-3カ月休んだところで何が変わるのだという意見がありました)。いくつかの研究がなされた現時点においても、抜歯時に骨粗しょう症治療薬を休むことのメリットが明確ではないことが紹介されていました。むしろデメリットが報告されています。顎骨壊死(顎骨骨髄炎)は骨粗しょう症治療を受けていない人にも生じていること、顎骨壊死(顎骨骨髄炎)の発生に関して、最近では“骨粗しょう症治療“より“炎症”がキーワードになっていることが紹介されていました。つまり顎骨壊死(顎骨骨髄炎)の発生に、歯周病や根尖病巣(歯の根っこの炎症)といった“炎症“を引き起こす病気の存在が発生に関係していることが紹介されていました(ただ、ビスホスホネート製剤が全く無関係という意味ではありません)。なお、骨粗しょう症薬の中で、顎骨壊死(顎骨骨髄炎)に関して話題になるのはビスホスホネート製剤という薬剤が大半です。デノスマブという薬剤も問題になりますが、私が発表した論文などもあり、デノスマブの休薬は危険という考えもあります(Niimi R et al. Osteoporosis Int 2018, Niimi R et al. Arch Osteoporosis 2020)。 診察室で骨粗しょう症の薬を飲んでいる患者さんから歯の治療をしても大丈夫でしょうか?という事をよくお聞きしますので、今回ご紹介させていただきました。

2022.10.22

講演会のために出張しました

新型コロナウイルス第7波の流行も徐々に収まりつつありますが、以前として新規感染者は発生しています。感染者への対応方法にも、完全ではないかもしれませんが、ある程度手順が確立されてきたと思います。一方で、経済活動への影響が少なくなるように、新型コロナウイルスとどう付き合っていくかも大切な課題になっています。 院長は、年20~30回ほど講演会に出席します。大半は演者としての参加で、骨粗しょう症、高尿酸結晶(痛風)、痛みについての講演をしています。新型コロナウイルス流行に伴い、新型コロナウイルスが登場してから、大半の講演会はWebを用いて開催されています。Webでは移動時間が少なく便利な反面、どうしても臨場感がないことが欠点の一つと感じています。今回、新型コロナウイルス流行後初めて県外の勉強会に参加しました。直前まで新型コロナウイルスの流行状況をみて参加しました。今回は、三重大学出身で、卒業後に千葉県に戻り大活躍されている先生からお誘いを受けました。講演会では、声をかけて頂いた先生の講演がありました。千葉県での骨粗しょう症治療の取り組みがテーマでした。 過去に何度もお伝えしたことがあるのですが、一度、骨折した人は何度も骨折しやすいことが知られています。そのため、一度転倒など軽微な外力で骨折した人は(転倒して骨折すれば、その時に、体に勢いがついていてもそうでなくても軽微な外力と考えられています)、骨粗しょう症の治療を検討すべき状態です。また、ここ数年の骨粗しょう症分野では、骨折1年以内に次の骨折を生じる人が特に多いことが、過去の研究から明らかになっており、最近では、骨折直後の患者さんには、強力な骨粗鬆症治療薬(注射製剤)で治療すべきという論文も発表されています。 骨粗しょう症の治療継続率は低く、治療が必要な人でも1年で約半数の人が治療をやめてしまうという現実があります。そのため、様々な医療機関で骨粗しょう症リエゾンサービス(OLSと呼ばれます)という取り組みをしております。OLSは患者さんやご家族に骨粗しょう症について知ってもらったり、骨粗しょう治療継続率を高めたりする活動をさします。OLSの参加する医療スタッフは医師だけではありません。骨粗しょう症治療薬の中には、治療中断に伴い、リバンド現象を起こすものもあり、治療の中断が危険になることもあります。当院では、受診がなかった患者様にお電話をさしていただいたりして治療継続率を高めています。最近、医療制度面からもOLSなどの活動に対する支援がありました。保険制度の改定に伴い、“大腿骨近位部骨折患者に対して、継続的に二次骨折予防を行った場合(二次骨折とは、骨折した人が次に起こす骨折のことを言います)”の費用が新設さました。総医療費は年々増加しています。その中で、骨折に対する医療費も大切です。国としては、骨折の治療も大切ですが、その予防をすることの方が、医療・介護費(大腿骨骨折の場合は歩行能力なども低下しますので介護費も増加します)の抑制にメリットが多いと考えたのではないかと思います。 千葉県ではいくつかの医療機関が連携し、二次骨折予防に取り組んでいました。三重県でもこういった取り組みが増えていくように努力していかなければと感じました。こういった活動を通して、健康年齢が延びればと思います。

2022.09.24

インカム導入しました

以前もお伝えしたことがありますので、同じ記事かと思われるかもしれません。当院では令和4年6月に一部のスタッフにインカムの導入を始めました。まず使用しやすい部署で運用しました。導入でスタッフの状況がわかり、業務に便利な点が多くありました。そのため、今回、インカムを他部署導入することにしました。 インカムの導入は円滑な運営を目的にしています。使用を開始してから数日経ち、良い点、悪い点を感じます。良い点を挙げると、インカムを使用することで離れた場所での状況がスタッフに把握しやすくなりました。例えば、ある診察室で、採血やMRIの予約を取ることになった場合、どうしても時間を要します。今までですと、他の診察室にいるスタッフは状況がわかりませんでした。インカムを導入することで、担当看護師が、“○○室で採血やMRI予約があります“、と連絡すると、他のスタッフは、その部屋での診察は少しの間できないことがわかるようになります。状況により、手の空いているスタッフが協力することが可能になりました。 当院で導入した機種は、携帯性に優れる機種です。販売されている機種を多く知っているわけではないのですが、当院の機種は予めグループを形成しておき、そのグループ内での会話が可能です。グループを大きくしてしまうと、通信量が増えすぎます。逆に小さくしてしまうと伝えたい人につながらないことがあります。このバランスの難しいところが悪い点だと感じています。慣れていないためか、誰かの声が聞こえるとつい、そちらに注意がいきます。そのため、患者さんとお話しているときに音声が聞こえてくると、驚いてしまいます。今後、慣れてくるとこういったことは減ると思います。 インカムで診察の待ち時間が無くなるわけではないですが、少しでもサービスの向上につながればと思います。

2022.09.18

当院で使用する傘について

昼の時間も徐々に短くなり、夕方6時半になると真っ暗ですね。あと数日で秋分の日です。 当院では、雨天時に使用して頂くために貸し出し用の傘を準備しています。雨の強い日などには、移動が困難な方を対象に、スタッフが可能な範囲で(タイミングによっては難しい時もあります)一緒に車まで付き添いさせていただきます。 さて、先日、非常に雨が強い日がありました。傘を差していても濡れてしまい、もっと大きな傘があればいいなと思い、新しい傘を購入しました。 1人で使用するとこんな感じです。撮影日は風が強く支えるのも大変です。 左は当院貸し出し用傘で、一般的なサイズです。比べるとかなり大きいことがわかると思います。雨の日も患者様やご家族が濡れずに車とクリニックの間を移動できればうれしいです。

2022.09.15

院長の論文が整形外科向け専門誌に掲載されました

院長は日々の診療も大切にしていますが、研究や発表、も熱心に行っています。研究の成果を伝えることは医療水準の向上につながりますので、論文作成や学会発表、講演会活動も行っています。今回、骨粗しょう症治療薬であるテリパラチド週2回製剤の治療成績についてまとめ論文としました。過去に行われた臨床試験と同様に良好な治療成績でした。 当院では重症の骨粗しょう症の方には、重症者向けの骨粗しょう症薬(注射薬)を勧めています。一方、軽症者には内服薬を勧めています。評価したものの、幸い治療の対象外の方には、それぞれの年齢や状態を勘案して次回の評価時期を伝えています。 重症者向けの薬剤は、現在4種類あり、3種類がテリパラチドというグループの薬、もう一つが抗スクレロスチン抗体と呼ばれる薬です。重症骨粗しょう症治療薬は、いずれも注射製剤で、なおかつ高価です。これらのお薬は内服薬などと異なり、効果・効能(いわゆる適応症)も“骨折のリスクの高い骨粗鬆症(いわゆる重症骨粗しょう症)”となっています。 当院で注射薬を勧めた際に、注射薬でないとダメなのかという質問を頻回に頂きます。繰り返しになりますが、注射薬を勧める人は重症骨粗しょう症の人です。注射薬は内服薬より治療効果が高いため、注射の方が良いと説明しています。私自身も医師であるだけでなく人間ですので、内服の方が注射より良いですし、薬剤費も安い方が良いと思います。ただ、注射で高価になのに、薬が販売されている理由はどうしてだろう?と考えると、治療効果が高いということがご理解していただけると思います。治療効果の高く安価な内服薬が開発されれば、それより治療効果が劣る注射薬は販売しなくなると思います。 今回、論文のテーマになった薬剤は週2回自宅で行うタイプの自己注射製剤です。自己注射製剤は怖い、痛いと患者さんの評判は悪いですが、実際に開始した患者さんに伺うと、大半の方から“思っていたよりはるかに簡単だった”、と言われます。自己注射製剤は骨粗しょう症を熱心にしていれば、欠かせない治療選択肢の一つです。骨粗しょう症の診断や重症度判定は、問診、背骨のレントゲン検査、骨密度検査が欠かせません。こういった評価で、重症骨粗しょう症と診断された方には、注射製剤を含めた治療薬選択を相談しています。複数回の骨折をしている方などが主な対象者です。もしお困りの方がいらっしゃいましたら相談ください。

2022.08.07