院長が執筆したコラムが掲載されました

ブログ 2023年11月13日

先日、JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATIONという和文の雑誌から執筆依頼を頂きました。今回の原稿は、依頼原稿と言う形です。依頼原稿は、雑誌が何らかの特集を組む際に、各分野の専門家に執筆を依頼するものです。今回、「脊椎脊髄疾患に対するリハビリテーション~Now and the Future~」というタイトルで、増刊号が発刊されることになりました。その中で、院長には“椎体骨折予防のための骨粗鬆症薬物治療”をテーマとした執筆依頼がありました。

椎体骨折とは、背骨の骨折のことです。今でも“圧迫骨折”という言葉を使用される医師や医療関係者、患者さんがいらっしゃいますが、正しくは“椎体骨折”です。ここでは、椎体骨折として話を進めていきます。

まず、①何もしていないのに骨折した、②転倒して骨折した、③数十センチの高さから転落した、で骨折していれば骨粗しょう症と考えられます。それは、普通、この程度のことでは骨折しないからです。①に関しては驚かれる方も多いでしょうが、椎体骨折の約2/3は、骨折者本人は骨折していることすら気付いていません(いつの間にか骨折していて、何かの機会にレントゲン撮影をすると骨折したことがあると判明します)。“背が3㎝低くなった”、などは椎体骨折のための場合もあります。大腿骨や手首の骨折は、“いつの間にか骨折”していることは考えにくいです。

椎体骨折は、骨折の中でダントツに発生件数の多い部位です。そもそも骨折は、生じやすい年代があります。10月16日のブログでも骨折の順番について書きましたが、その時の表とは異なる表で改めて説明していきます。

まず、50歳頃から増加してくるのは手首です。手首の骨折は転倒して生じます。8-9割の方が女性です。手首を骨折した大半の女性が、“自分はすごい勢いで転倒した”、“全体重がかかった”など、骨折時の外力の強さをアピールします(50代、60代の女性は判で押したように同じことを言われます)。ただ、手首の骨折を生じた方は、将来反対側の手首の骨折を生じたり、椎体骨折や大腿骨骨折を生じやすいです。50代や60代の方で多い骨折は、手首、肋骨、足首、足の甲などです。そして、60歳頃から椎体骨折が本格化します。椎体骨折の増加は他の骨折を圧倒し、70代以降はダントツの件数となります。また、80歳頃からは大腿骨の骨折が増加しました。この頃になると骨盤や上腕骨も増加してきます。個々の方の見ると様々なパターンがありますが、集団で見るとこのような傾向になります。

さて、今回のコラムに話を戻します。コラムでは、重症者向けの治療薬(注射製剤)について解説しています。

椎体骨折に限れば、2カ所以上の骨折や骨折部位の潰れ方がひどいと重症骨粗しょう症と診断されます。これらの骨折の方は、次の骨折を容易にしやすいと考えられるからです。現在利用できる重症骨粗しょう症用の治療薬は, ①テリパラチド製剤,②アバロパラチド製剤(副 甲状腺ホルモン関連蛋白質製剤),③抗スクレロ スチン抗体製剤があります。重症者向けの骨粗しょう症治療薬は全て注射製剤です。内服で開発できれば良いのですが、作用機序などの都合から注射薬で開発する薬剤は多くあります(唾液で分解されてしまう薬剤は注射でしか作れない)。患者さんが嫌がる注射薬が発売に至るためには、内服薬より効果が強いことが必須になります。現在ある骨粗しょう症治療薬も注射薬は内服薬より効果が強いと考えられるものばかりです。なお、時々誤解されている方もいますが、副作用は、必ずしも効果に比例して強くなるわけではありません。②のアバロパラチド製剤(副 甲状腺ホルモン関連蛋白質製剤)は1年以内に販売が開始した製剤です。まだまだ、使用している患者さんは少ないです。ただ、海外では以前より使用が可能で、既に多くの論文が出ています。これらの薬剤について、コラムでは解説しています。どちらが良いかは、患者さんのやりやすさなどによっても異なります。今回のコラムが多くの医療者にとって骨粗しょう症やその治療薬について理解するきっかけになればと考えています。