整形外科領域の“がん“について ~AYA世代について~

ブログ 2023年12月26日

 前回、整形外科領域の“がん”について話題にしました。未読の方は、よろしければ、前回のブログをご覧ください。今回は、整形外科で扱うがん(=肉腫)について説明をします。整形外科で治療を行うものは骨、軟骨、筋、脂肪、神経などを発生母体とした肉腫です。代表的なものの一つが、骨肉腫です。今回は骨肉腫を中心に説明します。骨肉腫は、医療従事者以外も知っている方は多いと思います。一方で、患者数は非常に少ないです。がん情報サービスによれば、日本国内でこの病気にかかる人は1年間に200人くらいです(https://ganjoho.jp/public/index.html)。骨肉腫は大人に発生することは比較的少なく、多くの患者さんは小学の高学年から高校生くらいに発見されます。骨肉腫の原因は不明です。一部の骨肉腫は遺伝子変異が関係しますが、大半はこの遺伝子変異も関係していません。また、放射線治療をした部位に骨肉腫が発生することもあります。今までに様々な研究が行われていますが、骨肉腫の決定的な原因は同定されていません。原因が不明なのは、骨肉腫に限らず、多くの肉腫、もっと言えば、“がん”の多くも同様に原因が不明です。原因が分かっているものと言えば、肝臓がんは肝炎ウイルス感染、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス感染、胃がんはヘリコバクターピロリ感染が重要な起点になることが知られています(全ての肝がん、子宮頸がん、胃がんが感染でなる訳ではありませんし、感染者が全員がんになる訳でもありません)。 

骨肉腫の発生部位は膝周りが多いです。最初は運動をして膝の痛みが出て、安静にしておれば改善します。腫れも出ることがあります。次第に痛みが強くなり、安静にしても改善しなくなるようになることが多いです。腫れも徐々にひどくなり、安静にしても引かなくなってきます。おかしいなと思い、医療機関を受診して、診断に至ります。 

骨肉腫の治療は、手術と化学療法が主です。手術は患肢温存といって、足の切断せずに腫瘍とその周りの組織を一塊にして切除します。足の切断をする患者さんもいますが、ごく少数です。患肢温存手術の多くの場合は、関節自体が切除されます。そして、歩けるように人工関節という機械を使って、関節を再建します。手術後にスポーツは難しいですが、歩けるようになることがほとんどです。命に関わるのは遠隔転移の制御です。骨肉腫は肺にしばしば遠隔転移をするので、肺の状態確認は欠かせません。治療開始時に画像上、遠隔転移がなくても、画像に映らない転位がある可能性もあるので、化学療法を行います。遠隔転移がある患者さんも化学療法を行います。化学療法は数カ月から1年近くに及び、入院で行うことが多いです(副作用の都合で外来では難しい)。手術方法の改善により、切断術が回避され、手術後の歩行状態が良くなってきました。化学療法の進歩により、生命予後が改善してきています。その一方で、今なお死亡する患者さんも多くいるのも事実です。放射線治療は行う場合もありますが、効果が少ないことが多く、頻度は少ないです。ただ、放射線治療の進歩も目覚ましいものがあり、今後、骨肉腫に対して積極的に粒子線治療が行われる可能性もあります。 

骨肉腫は小学の高学年から高校生くらいに発生しやすいと述べました。骨肉以外にも、学生世代に発生する肉腫は多くあります。治療も大切ですが、治療に付随するサポートなど欠かせないです。 

15歳~39歳までの患者さんをAYA世代(アヤ世代)と呼びます。AYAとはAdolescent&Young Adult(思春期・若者成人)の略です。がんは様々な世代で発生します。それぞれの世代で、家庭や社会で果たす役割が異なりますので、がんになった場合、それぞれの世代で特有の問題が生じます。AYA世代で言えば、就学、就職・就労、結婚、出産、子育てがある世代です。骨肉腫の患者さんには学生さんが多く、化学療法も数カ月に及ぶために、多くの患者さんで学業に影響が出ます。化学療法は副作用との戦いでもあり、副作用が出ている時に勉強は、とてもできません。また学校の授業のようなことは病院では難しく、十分なサポートが受けられません。友達ともなかなか会えなかったりします。手術後は、スポーツが難しく、同じ世代の人に比べて生活の制限もあります(階段が苦手という子供もいます)。その後の人生の選択肢も制限が出る可能性もあります。学歴や身体能力は就職でも大切ですので、どうしても影響が出たりします。また化学療法の影響で妊娠に影響が出る場合もあります。実際に影響が出るかわからなくても、患者さん自身にとって、心の重荷になっている場合もあります。AYA世代では、こういったことへのケア・支えも重要です。AYA世代のがんでは、特に周囲の方のサポートが大切です。AYA世代のがんを扱う医療機関では、相談窓口を設けている所が多くあります。ただ、相談窓口を利用されるのは、患者さんやご家族です。今回のブログを読んでいただいた皆さんにおかれましても、整形外科のがんやAYA世代のがんについて、理解が深まれば幸いです。