新規治療薬テリボンAI当院での治療成績報告

ブログ 2021年10月3日

骨粗しょう症治療薬は、注射製剤を中心に新たな作用機序を持ったものが上市(発売)されています。“骨粗しょう症はカルシウムが不足した病気”と思われている人も多くいますが、残念ながら、カルシウムを補っても骨が折れにくくなる効果はあってもわずかに期待できる程度で、カルシウム摂取のみで骨折予防することは難しいです。

骨粗しょう症は、骨の新陳代謝に異常をきたした病気です。そのため、骨の新陳代謝を調整する(おかしくなった新陳代謝を適切に戻す、あるいは骨を作る能力を強化する)ために、様々な研究がされ、上手くいったものが薬として実用化されます。

骨には3種類の細胞があると考えられています。3種類の細胞は、個々が独立して働いていることはなく、お互いが何らかの連携を取り、新陳代謝を調整していると考えられています。骨には骨を作る骨芽細胞、骨を壊す破骨細胞(意外かもしれませんが骨を壊す細胞は大切です。古い骨を壊してから新しい骨を作るからです)、大切な役割を担っていることが予想されるものの、どのような働きがあるのか十分わかっていない骨細胞があります。

さて、皆さんは自分が考えていること、思っていることをどのように伝えていますか?他人に意思を伝える時に、発声・字・ジャスチャー・目配せなどを使うと思います。他人に意思を伝える道具とは言いにくいですが、臭いも大切な伝達ツールになります。

骨では、例えば破骨細胞が骨を壊したときに出る骨の部品(廃材)が骨を作る信号にもなります。また、寝たきりになると骨が急速に弱くなることが知られています。これは、荷重(重力がかかること)がWntシグナル(ウイントシグナル)という調整系に影響を与えることも分かっており、これが骨の代謝に影響を与えます。今わかっているもの、わかっていないもの多くありますが、例えばWntシグナルの一部を狙った薬剤も開発・実用化されています。

今回紹介する新規治療薬テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター®(以下;テリボンAI)というのは、副甲状腺ホルモンに似せた薬剤です。副甲状腺ホルモンは、ヒトに存在するホルモンです。主に骨の代謝、あるいはカルシウムやリンの濃度を保つために必要な役割は果たしています。

副甲状腺ホルモンは興味深い性質があります。持続的に体内の副甲状腺ホルモン濃度が高いと、骨は弱くなっていきます。そして骨粗鬆症になります。逆に、散発的(時々)に濃度が高まると骨が旺盛に作られるようになります。その性質を利用しているのがテリボンAIです。テリボンAIの中には副甲状腺ホルモンの一部に似たものが入っています。これを時々注射することで散発的(時々)に濃度が高まります。そして骨が強くなり、骨折の予防ができます。

この薬剤は、週に2回、最長で24ヵ月、自宅で注射する製剤です。自分で注射には抵抗がありますが、針も細く、シヤチハタ(社名の発音はシャチハタなのですが文字にする時にはシヤチハタと書くそうです;Schachihataのホームページより)を押すような感じで注射でき、痛みもわずかで患者さんの評判も良いです(もちろん最初に紹介した際にはほぼ全員の方が嫌がりますが…)。対象になる患者さんは“骨折リスクが高い骨粗しょう症”の方です。具体的に言うと骨折が2ヵ所ある・骨密度が著しく低いなど、になります。

今回、当院で治療した患者さんの1年での治療成績をまとめました。

当院では、2019年11月から2020年8月までに使用した患者さんは55名でした。

① 1年間継続した患者さん;42名(76%)

② 1年間の骨密度増加率;腰椎8.3%、大腿骨近位部(ふともも)1.3%

③ 中止した患者さん;13名

 [中止した理由]治療意欲がなくなった6名、たまたま他の病気が見つかり中止3名、気分不快2名、めまい1名、注射が難しい1名。

④ 副作用;血液データなど客観的にわかる指標で、中止に至る副作用が出た人はいませんでした。

なお、注射に関しては思っているより簡単だったという意見が大半でした。

骨粗鬆症治療は種類が徐々に増えるにつれ、薬剤の使用順が大切と考えられるようになっています。例えば、A薬とB薬を2年ずつ計4年間使用するとします。①A薬→B薬と②B薬→A薬の投与では、各々2年投与しているにも関わらず治療効果が異なることが、一部の研究から明らかになっています。今回紹介したテリボン皮下注®は、最初の方に使用した方が良いと考えられる薬剤の代表例です。

当院では、自己注射をサポートができる体制が揃っており、対象になる患者さんには紹介しています。またこのブログを読んで検討したい方がいらしたら相談して下さい。