秋分の日も過ぎ、気がつけば18時ごろには暗くなりました。また、夜は涼しいという感じから肌寒い日も出てきて随分秋らしくなりました。
さて、今回は骨粗しょう症に関するブログにしたいと思います。最近、読んだ論文の紹介です(Cosman F et al. JBMR 2024,1-13)。American Society for Bone and Mineral Research (略してASBMR、米国骨代謝学会)から骨粗しょう症治療の治療方針に関する論文が発表されました。論文の内容は初めて発表されたものではありませんが、新しいデータなどを踏まえて、過去のものと少し変化しています。他の医療分野も同様ですが、米国の学会の治療指針は世界中に影響を与えます。骨粗しょう症分野についても、ASBMRの指針は、世界中で参考にされます。
この論文では、治療全般について述べられています。論文のタイトルの一部は、“Goal-directed osteoporosis treatment”とありますが、治療目標を決めて(骨折歴のない患者さんは、骨密度YAM70%が一つの目標になりますが、骨折歴がある人は、一生骨折リスクが高いためにゴール設定は困難です)、いかに早期に治療目標に到達するかをテーマに書かれています。論文の中で、重症骨粗しょう症患者さんへの対応が話題の一つになっています。。この数年、重症骨粗しょう症患者さんに対して、できるだけ早く一部の注射製剤を使用することが推奨されています。これは、20-30年前に関節リウマチの分野で起こったことと同じようなことが骨粗しょう症分野でも起こっています。歴史を学ぶことは大切ですので、関節リウマチの治療について、まず紹介します。私が学生だった30年近く前はリウマチ治療の転換時期でした。それまでは、弱い薬から効果を見ながら強い薬に変更していく方法が一般的でした。ただ、この方法では、関節の破壊が進む人が多くいました。その後、リウマトレックスという治療薬を、最初に投与することが、将来の患者さんの状態を以前の治療方法よりも改善する研究報告が出てきたことから、関節リウマチと診断されれば、まず、リウマトレックスという強い薬を投与しようという流れになりました。さらにその後、生物学的製剤など新しい薬が登場し、現在は、関節リウマチと診断されれば、まずリウマトレックス、効果が乏しければ生物学的製剤やJAK阻害薬を投与するという流れになっています。今後、他の方法で、現在の治療成績を上回ることが分かれば、治療方法が変わるかもしれません。
骨粗しょう症治療も、特に重症者に対しては治療方法が変わりつつあります。上述したように、重症と判断される場合、まず、重症骨粗しょう症向けの治療薬を使用しましょうという方向になっています。そうすることで、骨折を強く予防できたり、それに伴う生活水準の低下を防ぐことができると考えられています。最近の論調は、以前よりも増して、まず注射薬という流れです(Anabolic firstと言います)。見方を変えれば、重症骨粗しょう症患者さんに対して、最初の治療薬として内服薬は推奨されにくい状況です。
では、重症骨粗しょう症向けの治療薬は何でしょうか?それは、月に1回医療施設で注射する抗スクレロスチン抗体製剤、毎日自己注射するテリパラチド製剤やアバロパラチド製剤、週2回自己注射するテリパラチド製剤、週1回医療機関で注射するテリパラチド製剤が挙げられます。これらの製剤は、比較的費用も掛かります。また自己注射製剤は、実際にやると簡単なのですが、始めるまでのハードルが高いです。当院では、開院時から重症骨粗しょう症患者さんには、重症骨粗しょう症の患者さん向けの注射製剤を紹介しています。そのため治療方針は変わりません。同時に重症者でない患者さんには、それ以外の薬剤を勧めています。
今回の論文では、骨密度測定の部位についても言及があり、最も大切なのは、大腿骨であることも書かれています。骨密度検査は診断のために行う場合、治療効果判定のために行う場合とあります。現状で骨密度の測定方法は4パターンあります。①腰椎と大腿骨、②手首、③手、④踵です。①の腰椎と大腿骨のセットで測る方法が最も優れることには変わりありません。ただ、腰椎骨密度は背骨の骨折予測に優れるのに対して、大腿骨は大腿骨骨折と背骨以外の骨折予測に優れることから、大腿骨を最も大切な部位としています。骨粗しょう症治療の目的は骨折予防、骨折に伴う生活水準の低下を防ぐことで、そのためには、頻度や骨折時の影響を考えた時に、大腿骨骨折の予防が最重要であることは議論の余地がないと思われます。一方、背骨の骨折が非常に多いこと、大腿骨骨密度と大腿骨骨折の発生がどれ位強固に関係しているかがはっきりしないこともあり腰椎の骨密度測定に意義が少ない訳ではありません。
また、骨折リスクについても述べられています。低骨密度、骨折歴が特に大切なことは、従来から同じです。それ以外に、最近の骨折歴、特に骨折1年以内、あるいは2年以内の骨折リスクが高いことも、強調されています。
論文に掲載されている図です。65歳より高齢の女性を対象にした研究ですが、背骨は骨折1年以内に14%の人が次の骨折を生じます。骨盤骨折なら12%、という確率になっています。背骨の骨折後に最も生じやすい次の骨折部位は背骨ですが、骨盤の場合は、大腿骨骨折の頻度が多いことが知られており、骨折率が全てではないことに注意していただけたらと思います。
全ての分野で最新の情報を提供するのは難しいですが、できるだけ勉強し、よりよい治療につなげたいと思います。当院は様々な分野の専門医が診察をしておりますので、そちらの先生の力もあわせて治療に当たりたいと思います。