先日、院長が関わった骨粗しょう症の啓発サイトがオープンした旨を報告しました。今回、サイトの内容を紙面にしたパンフレットが出来上がりました。パンフレットは24ページもあり、内容も充実しています。パンフレットは、全国の医療機関や薬局で配布される予定です。当院でもパンフレットの準備があります。
骨折者の多くが、骨粗しょう症治療を受けていない人だと報告されています。大腿骨骨折は、そのほとんどが入院して手術になります。入院時にお薬手帳を確認しますが、その際に骨粗しょう症のお薬を飲んでいる、あるいは注射していることは少数です。入院時の骨粗しょう症治療率を調べる研究は、毎年のようにされていて、学会や論文で発表されています。
慢性疾患では、予防の治療のために治療を始めても、自覚症状としての改善に乏しく、治療をやめてしまう方が多くいます(予防のための治療なので自覚症状がない)。骨粗しょう症治療開始一年の継続率は50%位とも言われています。高血圧や糖尿病などの慢性疾患と比べても骨粗しょう症の治療継続率は低いと言われています。骨折したことのある人が、再度骨折しやすいことが、過去に時間や場所、人種などを変えて幾度となく行われてきた大規模調査でも明らかです。治療をやめてしまった人が、また骨折をして医療機関を受診することも多くあります。
パンフレットの内容を少し紹介します。
パンフレットの表紙です。閉経後女性の約5人に1人が、最初の骨折をした1年以内に再び骨折していると報告されています。
パンフレットの一部を説明します。このパンフレットでは、「くりかえし骨折」という言葉を用いて、同じ人が何度も骨折しやすいことを解説しています。初めて骨折する場所で代表的なのは、50歳から70歳位まででは手首、肋骨、足首、足です。そして、70歳を超えると背骨が急増します。大腿骨骨折は80歳頃から増えます。どの場所も、骨折しやすいのは女性です。
50歳代の手首の骨折を生じた方は、その大半が女性と、明らかな偏りがあります。ただ、50歳代の女性の方は、骨粗しょう症の始まりの骨折(“お知らせ骨折”とも呼ばれます)であることを説明するのですが、ほとんどの人が、“自分はすごい勢いで転倒したから骨折した”、と言われます。患者さんの多くが、判で押したように、”すごい転倒の仕方のために骨折した“と話されます。ところが、医師の立場からみると、手首の骨折は圧倒的に女性が多いことなど、骨折した人の性別や年代には偏りがあることが分かります。そのため、50-70歳頃の方に骨粗しょう症が関係していると説明しても受け入れられないという人間の心理が反映しているのだろうと感じます(教科書や論文にも、女性に多い、50-70歳頃に多いと書いてあります)。
ただ、50-70頃の方は骨密度を測定しても、それほど低くないことが多く、患者さんの立場からすると、“やっぱり外力が強く、たまたま骨折した”という気持ちを強くします。骨密度検査は重要ですが、骨折予測には限界があります。骨折の既往は、骨密度とは独立して骨折の大切な予測因子になり、特に手首を骨折した人が、反対側の手首や背骨、大腿骨などを骨折しやすいことが知られています。
今回のパンフレットとは違うパンフレットについても紹介します。
この図では、①50歳代の女性が前向きに転倒してて手首の骨折、②60歳を過ぎてから背骨を何度も骨折して背中が曲がっていく(転倒していないのに骨折している)、③80歳頃に尻もちをついて大腿骨骨折をしている、様子が描かれています。この通りに進むのはモデルケースですが、大腿骨骨折の以前に他の場所の骨折をしたことがある患者さんが多いのは事実です。
今年発表された手首の骨折に関する論文です(Luo Z et al. BMC Musculoskelet Disord 2023)。
図の縦が骨折した人の数、横が年代です。オレンジが男性(男児)、黄色が女性(女児)です。
手首の骨折は10歳代で1回目のピークがあります。ここでは男児に多いです。そして50、60歳代で2回目のピークがあります。こちらは女性が多くなります。両者は異なる原因で生じるのだろうと思います。10歳代の男児は、骨の強度を上回る激しい外力で骨折している、50,60-歳代の女性は、骨の強度が落ちてきて軽微な外力で骨折していると思われます。70歳以降でも、骨折数や率は変わらないという報告もあれば、この論文のように減少するとなっている論文もあります。手首の骨折は、転倒した際にとっさに手を付けないと骨折が生じません。高齢者になるほど、手を付けずに顔面や胸をぶつけることが多くなり、その部位の骨折頻度が増します。そのために手首の骨折数が減少していると考えることもできます。
今回のパンフレットが骨粗しょう症の人だけではなく、現時点では骨粗しょう症ではない人にとっても、骨粗しょう症について知る機会になれば幸いです。