院長の論文が掲載されました

運動器や感覚器(主に整形外科領域)の専門誌の一つである、Bone Joint Nerve(BJN)に院長の執筆した論文が掲載されました。今回、BJNでは、骨粗しょう症に関する特集が企画されました。特集を取りまとめる先生より執筆依頼がありました。院長はSERM(サーム)と呼ばれるグループの薬剤についての執筆依頼があり、SERMの特徴などを解説しました。SERMの歴史、骨粗しょう症治療の効果について解説しています。またSERMは脂質代謝、浸潤性乳癌の発生抑制、腎機能保護作用など骨粗しょう症以外にも良い影響があることを解説しています。他の論文を執筆されている先生は、日本の骨粗しょう症研究や治療をけん引する先生ばかりです。論文を作成するにあたり、様々なことを勉強します。そして改めてSERMの魅力を知りました。今後の骨粗しょう症治療に役立てればと思います。 BNJ表紙

2021.11.14

骨密度測定器をメンテナンスしました

今回は骨密度測定器について紹介します。開院4年目に入ったところですが、早めに骨密度測定器の大規模メンテナンスを行いました。何が大規模化というと、最も大切な乾球と呼ばれる部品を中心に取り替えました。 機械の蓋を外した様子 赤い破線部分の奥が乾球になります 半透明の部品を使って精度を調整しています 骨密度測定の目的は2つあります。1つは骨粗しょう症の診断のため、もう1つは治療の効果判定のためです。 骨密度測定器には数種類あります。一生涯で骨密度値が変化しにくい部位、治療により変化しにくい部位、検査の誤差が大きい部位など特徴があります。 骨粗しょう症の診断において最も大切なのは股関節だと思います。それは骨折が生じた際の影響が大きいからです。股関節の骨折は、私が以前勤めていた富田浜病院で研究した際も、熱心なリハビリにもかかわらず半数の方で歩行能力が低下していました。次いで大切なのは、背骨だと思います。背骨の骨折は発生件数が非常に多いからです。そのため、股関節や背骨の骨密度が測定できるタイプの骨密度測定器が最も有用です。ただ、この機械は高額な上、スペースの問題ですべての医療機関でできるわけではありません。当院では、骨粗しょう症を熱心にしていますので、この部位を測定しています。 また治療の効果を見る際に有用なのは背骨です。これは、背骨の骨密度は治療で変化しやすいことや、検査の誤差が少ないことが理由に挙げられます。私が過去に行った研究では、2回連続骨密度を測定しても、背骨では4割の人しか同じ値になりませんでした。股関節に至っては1割の人しか同じ値になりませんでした。手首や手、踵はそれよりも誤差が大きいと考えられています。もともと治療により骨密度が上がりやすい部位ではないので、経過をみるのは不得手な部位です。 主な骨密度測定器の種類(院長作成)

2021.10.31

骨粗しょう症治療と歯について

医療職の方から当院のブログについてコメントを頂くことがあります。今回は少し医療者向けの話になりますが、顎骨骨髄炎(顎骨壊死)に関する最近の話題を紹介します。 ホームページの立ち上げ時からホームページ内に紹介してますが、骨粗しょう症治療中に歯科治療が話題になることがあります。歯科の立場からみると、歯科治療中に骨粗しょう症治療が話題になることがあると思います。これは、顎骨骨髄炎(あるいは顎骨壊死)という病気が関係しています。 顎骨骨髄炎が初めて紹介されたのは2003年です。Marx先生という有名な先生が、ビスホスホネート製剤(以下;BP製剤)というグループの治療薬を使用している、がん患者さんや骨粗しょう症患者さんが、抜歯などの侵襲的な歯科治療を受けた際に、あるいは時には治療を受けていない場合でも、顎骨に病気が起こることを発表しました。これをOsteonecrosis of the jaw(以下;ONJ)と名付けました。OsteonecrosisとMarx先生が論文に記載したために、日本語で“壊死”となっていますが、壊死は結果です。感染などさまざまなことが生じた結果として壊死が生じています。BP製剤が骨に壊死を生じさせることはないと考えられています(BP製剤のために健康的な骨に突然、壊死が生じるのではなく、BP製剤が感染巣の形成に関係したり治癒を妨げることに関係している可能性が考えられている)。 BP製剤は、骨粗しょう症治療に革命を起こしたと言える薬剤で、優れた骨折予防があります。そればかりか顎の骨も丈夫になるので、歯にも良い影響があると長期間言われていたので衝撃的な発表でした。それ以来、混乱が続いています。混乱の原因はいくつかあると考えています。一つは、明確に発生機序が分からないこと(情報不足)、他には情報の一部をとらえて全体のように扱ってしまうことです(いわゆる切り取り報道や切り取り情報、偏向報道や偏向情報です)。どこからが偏向情報かは難しいですが、多くの情報に触れることが“偏向”を避ける手段の一つであると思います。 なぜ、がん患者さんと骨粗しょう症患者さんが列挙されるかはわかりにくいと思います。まず、それを説明します。がんは骨に転移病巣を作ることがあります。がんが転移する時には、骨にある破骨細胞という細胞が重要な役割を果たしていることが分かっています。破骨細胞の機能を抑えることは、転移巣に良い影響があります。そのため破骨細胞を抑える薬剤が開発されました。破骨細胞の機能を抑えることは骨の破壊を抑えることにもつながります。そのため、骨粗しょう症にも治療薬として使えます。がんと骨粗しょう症では、用量や用法は異なりますが、臨床試験で有効性や安全性が認められた一部の薬剤では、がんの骨転移や骨粗しょう症に使用することが承認されています。 ONJに関していくつか分かっていることがあります。それについて紹介します。 ①発生頻度がまれであること。 ※データによってもデータによっても異なりますが、10万人・1年あたり(10万人の人が1年過ごして)1人を下回る発生頻度と考えられます。ただ、歯科医からは、これより多い頻度に感じるそうです。 ②慢性的な感染症が主要な原因の一つであること。 ※口腔内に細菌がいないマウスでは、実験でBP製剤の量を増やしていってもONJが発生しないことや、がん患者さんにおいて口腔内清掃を徹底するとONJ発生頻度が大幅に減ることも報告されています。これらの結果は、ONJに感染が関係していることを示唆します。 ③歯科の侵襲的な処置時(抜歯時)に生じることが多いこと。 ※大半の研究で、抜歯が危険なリスクとされています。ONJはBP製剤やデノスマブという骨粗しょう症治療薬を使用している患者さんが抜歯をしたことが契機に発生することが多いです。その一方、BP製剤やデノスマブを使用していない抜歯患者さん、あるいは、BP製剤やデノスマブを使用している抜歯していない患者さんにも発生します。 ④がん患者さん(BP使用に関わらず)やBP製剤使用骨粗しょう症患者さんに多いこと。 ※がん患者さんは栄養状態が悪いことが多く、口腔内の衛生環境が悪くなる傾向にあります。さらに、BP製剤を骨転移治療のために使用することもあります。そのためONJが発生しやすいと考えられています。 ⑤糖尿病や関節リウマチ患者さんも発生しやすいこと。 ⑥骨粗しょう症やがん治療において、治療により得られるメリットがデメリットを上回ることは明らかなこと。 ※ONJの発生は稀と考えられています。例えば、2020年の三重県の交通事故死亡率は10万人・1年で4.10人です。大腿骨近位部骨折の発生率は10万人・1年あたり20人弱と考えられます。大腿骨骨折は、半数の人に歩行能力低下を生じるとされる骨折です。しかしBP製剤の治療で半数(あるいはそれ以下)の大腿骨骨折が予防できます。また骨折は大腿骨近位部のみに生じるわけではありませんので、BP製剤で予防できる骨折数や身体機能低下はもっと多いです。しかも、BP製剤使用者がONJになっても、すべてがBP製剤のせいだけで生じるわけではありませんので(BP製剤非使用者でも発生するわけですから、ONJが発生していた人が、たまたまBP製剤を使用していた場合もあります。BP製剤を使用中に発生したONJは、BP製剤のために発生したかどうかはわかりませんが、全てBRONJといわれます)、メリット>>デメリットと考えられています。 ⑦口腔内の衛生が大切であること。 ⑧医師と歯科医師、その他チームでの予防や治療が必要であること。 ※なかなかうまくいっていないのが現実です。 ⑨抜歯に際しての、BP製剤の休薬を一律にすることは推奨しないこと。 ※休薬の効果は不明であること、休薬期間を設けることで口腔内の感染状況が一段と悪化するためにONJのリスクがさらに高まる可能性も指摘されています。 当院では、骨粗しょう症治療開始時や折を見て歯科受診を勧めています。ただ、患者さんによっては歯科受診をためらう人もいます。理由を伺うと歯科医院のにおいが気になる(消毒薬でしょうか)、音が嫌とか言われる人もいます。また、歯科受診をして頂いた場合も、連携に前向きな先生もいらっしゃる一方で、“骨粗しょう症治療薬あるいはBP製剤=悪”で骨粗しょう症治療を中止するように勧める先生、すべての治療薬がONJに関係していると誤解されている先生もおられ、現実的に連携も難しいところがあります。 歯科医の立場を聞くことがありますが、理屈で大丈夫や骨も大切とわかっていても、自身が治療した患者さんにONJが発生すると治療に困ったり、対応に苦慮するために、どうしてもBP製剤使用患者さんに対して慎重になってしまうそうです。 前置きが長くなりましたが、今回は最近の論文を紹介したいと思います。この論文を取り上げたのは①2021年発表、②大量の人数を解析した結果の論文、を探して、まず見つかった論文だからです。 2021年 Boneという雑誌に掲載されました。韓国からの論文です(Kim SH et al. Bone 143(2021)115650)。 この論文はコホート研究というタイプの研究です。データベースから2012年に骨粗しょう症と診断された約214万人をまず抽出しています。その中から様々な条件を付けて、最終的に16.5万人のBP製剤を開始した骨粗しょう症患者さんが抽出されました。そして年齢や性別を一致させ16.5万人のBP製剤非使用の骨粗しょう症患者さんを抽出しています。両者を比較してONJがどうであったかを見ています(比較は大事ですね)。なお、ONJが骨粗しょう症治療薬を使用している患者さんのみに生じる病気と考えている医師や歯科医師もいらっしゃいますが、それは間違いです。 以下に要点を列挙します。 【研究方法】 コホート研究【対象者】 BP製剤使用者 約16.5万  v.s.  年齢・性別をマッチングさせたBP製剤非使用者 約16.5万【経過観察期間】4年【結果】ONJ発生はBP製剤使用で10万人・1年あたり21人、BP製剤非使用者で7人。 ONJに関係するリスクとして、統計手法を用いて様々な因子を調整すると、 1)BP 製剤使用者で3.7倍高い(BP製剤非使用者に比べて) 2)性別は発生に差がない 3)年齢が高いとONJ発生しやすい(50-59歳の発生率に比べ、70-79歳では2.3倍、80歳以上では3.0倍) 4)BMI≧25はBMI18.5未満に比べて0.5倍高い(生じにくい) 5)喫煙は発生に差がない 6)骨粗しょう症による骨折があると1.6倍高い 7)抜歯すると9.9倍高い。インプラント治療は0.6倍高い(生じにくい)。歯周炎や歯周病があると4.8倍高い。 8)ステロイド使用者は発生に差がない。血管新生阻害剤(がんに使用する)は10.1倍高い。 9)糖尿病は1.4倍、高血圧は1.4倍、関節リウマチは7.4倍高く、腎不全・心不全・脳卒中・パーキンソン病は差がない。  という結果でした。見やすいように図にしてみました。 本研究ではONJに最も関係するリスクは、血管新生阻害薬、抜歯、次いで関節リウマチでした。ここに記載されているリスクは多変量解析の結果を示されているため、血管新生阻害薬を使用中の患者さんの抜歯は危険になりますし、そこにBP製剤を使用していることでリスクがさらに高くなると解釈できます。ただ、血管新生阻害薬は、がん患者さんに使用することが多いので、治療薬自体も関係するでしょうし、がんにより体力を奪われ、感染に対して弱くなっている可能性も考えられます。糖尿病患者さんや関節リウマチ患者さんがONJのリスク因子に挙がるのは、ONJが感染症という側面を強く示唆しています。今回は差がないと結果になりましたが、喫煙やステロイド薬使用患者さんもしばしばリスク因子として取り上げられています。 現在、日々の診療の中でONJに関する話題で、ONJについて歯科医師や医師から問題になることはBP製剤やデノスマブ、あるいは骨粗しょう症治療薬に集中しています。このブログを読まれるとご理解いただけると思いますが、現実的にはONJのリスクは多くあり、その大半はリスクとすら認識されていません。最初の方で切り取りあるいは偏向情報と挙げたのはこのためです。少しでもONJについて知っていただき、ONJが減ること、医科と歯科が連携して骨粗しょう症治療にあたれればと思います。また、口腔内の環境をよりよく保つことは、糖尿病、肺炎、心疾患、認知症などにも良い影響があること、あるいは、その可能性が指摘されています。当院では骨粗しょう症患者さん以外でも歯科検診も勧めています。 今回、Kim先生の論文を紹介しました。紹介しておいていうのもおかしいですが、一つの研究結果をそのまま信じることは危険です。例えば、本研究ではONJに関係すると考えられている喫煙にはリスクがありませんでした。多くの研究を見て判断していくことが大切と考えています。また、毎月、多くの優れた論文が発表されます。全てに目を通すのはできませんが、紹介する機会があればさせて頂きます。 10月20日は世界骨粗しょう症デー(World Osteoporosis Day)です。様々な国で、骨粗しょう症に関するイベントが開催されています。医療者の方や一般の方が興味を持つきっかけになればと思います。 本ブログについては、四日市市にある、さらの木歯科 深水陽介先生にもアドバイスをいただきました。深水先生は勉強熱心で、顎骨骨髄炎に関しても興味がある先生です。深水先生は四日市歯科医師会でも活躍されており、私が歯科医師会で講演をさせていただく際にも支援して頂きました。ブログは私が発信していますが、できるだけ内容に偏りがないように、歯科の立場からも助言をいただきました。御礼申し上げます。ありがとうございました。

2021.10.14

本について

待ち時間について様々な取り組みをしています。お待たせして申し訳ありません。様々な要因が組み合わさり待ち時間が長くなる日、長くなる時間帯があります。そのため時には離院して頂き、再度お越しいただけるか相談することもあります。 さて、待ち時間の短縮にはなりませんが、院内で快適に過ごしていただくために新聞や本・雑誌を置いています。コロナワクチン対策の一環として、新聞や本を撤去するお店が多くあります。ただ、新聞や本を撤去することが感染予防にどれくらい寄与するのか、はっきりしないところもあるように感じています。例えば、スーパーに行けば消毒せずに置いてあるものがほとんどですので、本の撤去にこだわっても仕方がない気がしています(いい加減な言い方で申し訳ありません。新聞や書籍は気になる方は手に取らないこともできますので、選択肢の一つとして院内に置いています)。そのため、新聞や雑誌・本を継続して置いています。現在、新聞は5紙、本は40冊、雑誌は月刊誌や週刊誌を中心に20-30冊あります。 雑誌は大半が月初めに新しいものに交換しています。本や雑誌は何を準備するかが難しいですが、様々なジャンルのものを、定番を、そして時に自分ではなかなか購入しないようなものを準備しています。手に取る人が少ない雑誌は、準備を止めるのではなく、数ヵ月毎にローテーションして購入するようにしています。本はストッックしたものが多くあるので数カ月でローテーションしています。その甲斐あってか、時々、患者さんから本が充実しているとのお言葉を頂きます。 また絵本や漫画も置いています。絵本は間違い探しなどを中心に10冊置いてあります。絵本は年齢が2歳ちがうだけで手に取るものが違います。各年齢にあわせてとはいきませんが年齢に合うものがあるように準備しています。現在、漫画は、“呪術開戦”を置いています。その前は“約束のネバーランド”でした。連載漫画は待ち時間で全巻読むことは難しいと思います。それでも、手に取って読んでいる人が多くいます。絵本はお子様が触るものです。教育の一環として大切に扱って欲しい思う一方で、小さなお子さんが取り扱うものですから、どうしても破損が多くなりがちです。人気の“アンパンマン”や“トムとジェリー”の間違い探しは、3年間で同じ本を数回交換しています。 清潔さを保つために拭けるものについては、スタッフが適宜拭いております。週末は、天日干しをしています。 “ドラえもん”は人気で再度購入しなおしました。現在、2代目です。 雑誌カバーは撤去しました。そのため角が曲がってきてしまうのが悩みです。 最近、方丈記をテーマにした漫画が出版されましたので購入しました。高校生の時に、“行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。”と暗記したことを覚えています。方丈記の内容はあまり知りませんでしたが、漫画ならと思い読んでみました。現代にも通じる内容があります。クリニックに置いてありますので興味があれば手に取ってください。 最後にですが、院長は“ドラゴンボール”世代ですので、“ドラゴンボール超”を読んでいます。最近、子供が“ワールドトリガー”を購入しており自宅で読んでいます。面白いですね。

2021.10.10

新規治療薬テリボンAI当院での治療成績報告

骨粗しょう症治療薬は、注射製剤を中心に新たな作用機序を持ったものが上市(発売)されています。“骨粗しょう症はカルシウムが不足した病気”と思われている人も多くいますが、残念ながら、カルシウムを補っても骨が折れにくくなる効果はあってもわずかに期待できる程度で、カルシウム摂取のみで骨折予防することは難しいです。 骨粗しょう症は、骨の新陳代謝に異常をきたした病気です。そのため、骨の新陳代謝を調整する(おかしくなった新陳代謝を適切に戻す、あるいは骨を作る能力を強化する)ために、様々な研究がされ、上手くいったものが薬として実用化されます。 骨には3種類の細胞があると考えられています。3種類の細胞は、個々が独立して働いていることはなく、お互いが何らかの連携を取り、新陳代謝を調整していると考えられています。骨には骨を作る骨芽細胞、骨を壊す破骨細胞(意外かもしれませんが骨を壊す細胞は大切です。古い骨を壊してから新しい骨を作るからです)、大切な役割を担っていることが予想されるものの、どのような働きがあるのか十分わかっていない骨細胞があります。 さて、皆さんは自分が考えていること、思っていることをどのように伝えていますか?他人に意思を伝える時に、発声・字・ジャスチャー・目配せなどを使うと思います。他人に意思を伝える道具とは言いにくいですが、臭いも大切な伝達ツールになります。 骨では、例えば破骨細胞が骨を壊したときに出る骨の部品(廃材)が骨を作る信号にもなります。また、寝たきりになると骨が急速に弱くなることが知られています。これは、荷重(重力がかかること)がWntシグナル(ウイントシグナル)という調整系に影響を与えることも分かっており、これが骨の代謝に影響を与えます。今わかっているもの、わかっていないもの多くありますが、例えばWntシグナルの一部を狙った薬剤も開発・実用化されています。 今回紹介する新規治療薬テリボン皮下注28.2μgオートインジェクター®(以下;テリボンAI)というのは、副甲状腺ホルモンに似せた薬剤です。副甲状腺ホルモンは、ヒトに存在するホルモンです。主に骨の代謝、あるいはカルシウムやリンの濃度を保つために必要な役割は果たしています。 副甲状腺ホルモンは興味深い性質があります。持続的に体内の副甲状腺ホルモン濃度が高いと、骨は弱くなっていきます。そして骨粗鬆症になります。逆に、散発的(時々)に濃度が高まると骨が旺盛に作られるようになります。その性質を利用しているのがテリボンAIです。テリボンAIの中には副甲状腺ホルモンの一部に似たものが入っています。これを時々注射することで散発的(時々)に濃度が高まります。そして骨が強くなり、骨折の予防ができます。 この薬剤は、週に2回、最長で24ヵ月、自宅で注射する製剤です。自分で注射には抵抗がありますが、針も細く、シヤチハタ(社名の発音はシャチハタなのですが文字にする時にはシヤチハタと書くそうです;Schachihataのホームページより)を押すような感じで注射でき、痛みもわずかで患者さんの評判も良いです(もちろん最初に紹介した際にはほぼ全員の方が嫌がりますが…)。対象になる患者さんは“骨折リスクが高い骨粗しょう症”の方です。具体的に言うと骨折が2ヵ所ある・骨密度が著しく低いなど、になります。 今回、当院で治療した患者さんの1年での治療成績をまとめました。 当院では、2019年11月から2020年8月までに使用した患者さんは55名でした。 ① 1年間継続した患者さん;42名(76%) ② 1年間の骨密度増加率;腰椎8.3%、大腿骨近位部(ふともも)1.3% ③ 中止した患者さん;13名  [中止した理由]治療意欲がなくなった6名、たまたま他の病気が見つかり中止3名、気分不快2名、めまい1名、注射が難しい1名。 ④ 副作用;血液データなど客観的にわかる指標で、中止に至る副作用が出た人はいませんでした。 なお、注射に関しては思っているより簡単だったという意見が大半でした。 骨粗鬆症治療は種類が徐々に増えるにつれ、薬剤の使用順が大切と考えられるようになっています。例えば、A薬とB薬を2年ずつ計4年間使用するとします。①A薬→B薬と②B薬→A薬の投与では、各々2年投与しているにも関わらず治療効果が異なることが、一部の研究から明らかになっています。今回紹介したテリボン皮下注®は、最初の方に使用した方が良いと考えられる薬剤の代表例です。 当院では、自己注射をサポートができる体制が揃っており、対象になる患者さんには紹介しています。またこのブログを読んで検討したい方がいらしたら相談して下さい。

2021.10.03
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