グルココルチコイド誘発性骨粗しょう症について

ブログ 2025年1月28日

今回は骨粗しょう症の話です。骨粗しょう症は、“軽微な力で骨折やすい状態”を指します。骨密度が低い人も骨折しやすいですが、骨密度が高くても骨折しやすい人は多くいます。実際、骨折した患者さんの多くでは、骨密度を測定しただけでは骨粗しょう症と診断できなかった人です。軽微な力で骨折した人の約8割では、骨密度は基準値(若い人の平均値の70%未満)ほど低下していなかったとも報告されています。

例えば、転倒を繰り返す人は、骨折リスクが高い状態とも考えられます。また、当院のブログで何度も述べていますが、“骨折したことがある人”は骨折リスクが高い状態です。他の病気でも言えますが、同じ人に同じことが何度も起こります。これは、恐らく病気に限ったことではないと思います。院長は忘れ物が多い人ですが、忘れ物が多い人は何度も忘れるのも、多くの方が納得されるでしょう。

骨粗しょう症に至るには、様々な要因があります。骨粗しょう症は、①体質的に骨が弱い(=原発性)、②何かの原因があって、その影響で骨が弱くなる(=二次性、あるいは続発性)に、大きく分けられます。①で最も大切なのは女性ホルモンの分泌が低下することです。言い出せば切りがないですが、女性ホルモンの分泌が減ると言っても、ここでもどうして減ったのかでさらに細分化されて、ややこしくなります。例えば、体質的に分泌が減っていく場合は原発性です。しかし、何らかの理由で、卵巣を切除せざるを得なかった場合、これにより骨粗しょう症になると二次性とも考えられます。私は、患者さんに説明する際に、不適切な部分があることを断りながら、火事に例え、以下の説明をしています:火事が生じた出火元が自宅であれば原発性、他の家が出火元で、自分の家が延焼して燃え広がれば二次性です。

二次性骨粗しょう症の代表例が、グルココルチコイド誘発性骨粗しょう症です(以前はステロイド性骨粗しょう症とよばれていました)。グルココルチコイド誘発性骨粗しょう症はGIOPと略されますので、以下はそのように記載させて頂きます。

表1を見て下さい。骨折しやすい人の特徴が並んでいます。骨密度も要因の一つで、項目に並んでいますが、多くの要因があることがわかります。

表1 骨折の危険因子


厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 骨粗鬆症(平成30年6月改定)p4,5より一部改変

運動には大腿骨骨折リスク低下効果があるとあります。これは、骨密度の増加より転倒しにくくなるという要因の方が強い気がします。多くの方が期待する、カルシウム摂取には有意な骨折抑制効果を認めないとなっています。

グルココルチコイド(ステロイド)は、様々な病気に欠かせない薬剤です。どの医師も副作用の種類は認識していますが、副作用も多岐に及びます。骨粗しょう症に関しては、グルココルチコイド少量の内服や注射使用でも、数カ月以内に骨折リスクが高まると考えられています。

骨粗しょう症は女性と男性だけでも病態は全く異なります。“骨密度が高ければ良い”と考える方、医師も多くいますが、男性や二次性骨粗しょう症は、閉経後の女性がなりやすい原発性骨粗しょう症と異なり、骨密度の重要性が低くなる傾向になります。今回話題にしているGIOPも同様で、可能であればグルココルチコイド使用開始時に、骨密度をはじめとしたした、いくつかの評価を行い、必要であればすぐに骨粗しょう症治療を始めることも大切です。

GIOPは重要な二次性骨粗しょう症ですが、診断方法や治療方法は、十分に確立されているとは言い切れません。GIOPに関しては、先日、“グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン2023”が諸先生方の努力で完成しました。ここには診断基準や治療に関して記載されていますが、まだまだ十分なエビデンスが蓄積されているわけではありません。現時点では治療薬として、エビデンス(研究がされ、効果が証明されているもの)があるものは、限られています。

現時点では成人に対しては、ビスホスホネート製剤、抗RANKL抗体、PTH1受容体作動薬などが有力な選択肢となります。その他、活性型ビタミンDやSERMと呼ばれる薬剤も選択肢になります。最近、上肢された抗スクレロスチン抗体に関しては十分なデータがない状況です。ただ、恐らく、抗スクレロスチン抗体は、原発性骨粗しょう症に対する治療成績や他剤のGIOPに対する効果を考えた時に、非常に強い効果があると予想されます。

当院では、豊富な骨粗しょう症治療経験をもとに、本邦でのガイドライン、海外でのガイドラインや研究結果を踏まえて、最適と思われる方法を提案します。GIOPは医師、患者さん泣かせの疾患の一つで、骨折のドミノが止まらない方もいます。そのため、できるだけ早期に治療介入することが大切です。お困りの方がいらっしゃいましたらご相談下さい。