慢性的な腰痛に悩む方へ(臨床治験のご案内) 

ブログ 2024年7月3日

今回は、三重大学で行われる治験の案内です。整形外科を受診するきっかけとなる代表的な症状の一つが腰痛です。“国民が悩んでいる症状”に関する調査が時々行われており、腰痛は肩こり、頭痛などに並び上位に挙がる症状です。腰痛は病名ではなく症状名です。腰痛の原因は多種多様ですが、多いものは経年的な変化を背景にしています。整形外科では“根本的な治療をしてもらえない”、“痛み止めの処方を受けるだけ”、という声を聞きます。また、そういったことを逆手にとって、“根本的な治療をします”、と謳う施設・医療類似行為・サプリなどの広告もしばしば見ます。当院では、患者さんに事実を説明することを心がけています。 

そもそも経年的な変化で生じる病気(腰痛に限らず、高血圧、糖尿病、高脂血症、など多くの高齢になるとかかりやすくなる病気)の根本的な治療は何でしょうか?それは、若返りです。一方、現状では、若返り薬やタイムマシーンはありません。そのため、根本的な治療はできません。それなのに、“根本的な治療をします”、と謳うことは、謳う人が事実を誤認しているか、事実と異なるとわかっていながら患者さんを集めるために大げさな話をしているかのどちらかです。当院では、経年的な変化で生じる病気に根本的な治療はできず、どうしても対症療法になると話しています。このように書くと冷たいと感じるかもしれないですが、“できないこと”を、“できる”ように装って説明する”ことは、知識の少ない患者さんを騙していて真心がないと考えるからです。 

腰痛に対しては、薬物治療(炎症を抑える薬剤、神経の損傷を改善する薬剤、神経と神経の接続部の異常を治す薬剤)、装具(コルセットを用いて動きを制限する)、リハビリ、注射、手術などが主な治療になります。手術ですら、症状を改善するための対症療法です。勘違いされている方も多いですが、手術の多くは対症療法です。例えば、胃がんができて胃の切除をしたとします。癌はなくなりますが、胃も切除されています。その結果、元の体とは違うことになり、そういった意味では対症療法になります。 

多くの方が望む根本的な治療は、まだまだ先の話ですが、再生医療は徐々に臨床応用されてきています。当院では、PRP療法という再生医療を主に関節の変形に対して行ってきました。また、三重大学整形外科では椎間板にPRP療法を行う治験を行い、良好な成績が出たことで、その後、臨床応用をしています。当院では、以前より椎間板に対するPRP療法の治験に協力してきました。 

“治験”を人体実験と勘違いされる人もいます。効果や副作用が全くわからない物質を人に投与することは決してありません。治験は厳しいルールがあります。 

以下は、治験に関する厚生労働省のホームページを引用します。 

「治験」とは 

化学合成や、植物、土壌中の菌、海洋生物などから発見された物質の中から、試験管の中での実験や動物実験により、病気に 効果があり、人に使用しても安全と予測されるものが「くすりの候補」として選ばれます。「くすりの候補」の開発の最終段階では、健康な人や患者さんの協力によって、人での効果と安全性を調べることが必要です。こうして得られた成績を国が審査して、病気の治療に必要で、かつ安全に使っていけると承認されたものが「くすり」となります。 

治験は病院で行われます。治験を行う病院は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」という規則に定められた要件を満足する病院だけが選ばれます。 その要件とは 

・医療設備が充分に整っていること 

・責任を持って治験を実施する医師、看護師、薬剤師等がそろっていること 

・治験の内容を審査する委員会を利用できること 

・緊急の場合には直ちに必要な治療、処置が行えること 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/fukyu1.htmlより) 

以下は、院長の意見です。「くすりの候補」と言っても、治験に入るような最終段階に至っているものの場合、効果や副作用は大方わかっており、最終確認という意味合いが強いです。もちろん、治験の段階で、想定より効果がなかった、あるいは想定より副作用の頻度が多かった、ということはあります。ただ、治験段階になり、未知の強い副作用が出現し人体に強い影響が出るということは考えにくいです。 

 当院が行っている、“治験に協力”とは、当院で治験をするという意味ではありません。三重大学では治験の条件に合致した患者さんを探しています。ただ、治験に参加する患者さんの条件は一般的に厳しく(治療効果を見るために、病気が少ない方が良い、薬を飲んでいない方が良い、など条件がありますが、一般的には若い人が対象になりやすいです)、三重大学だけで探すのが難しいことがあります(クリニックの方がはるかに多くの該当患者さんがいます)。院長自身が、研究を多くしてきた、あるいはしていることもあり、医学の進歩のために積極的に協力してきました。治験では患者さんを募集している期間があります。その期間内に当院受診された方で、治験の参加条件に合致する方については、三重大学で治験をしていることや、治験の概要を説明し、治験に参加したい方を紹介してきました。 

治験に参加する患者さんにとってのメリットは、①医学の進歩に協力できる、②最先端の治療や効果判定・副作用確認のために必要な検査を無料で受けられることが挙げられます(その後、薬として承認された場合は、治験薬を無料でできることはありません)。デメリットとしては、①思ったより効果がなかった、②治験中は決められた時期に定期通院をしないといけない、③決められた検査を受けなければならない、④可能な限り研究データの収集に協力する(データ収集ではプライバシーは守られます。ただ薬の承認データを集めるのも目的の一つですので、研究協力して頂けるのが前提になります)、などがあります。 

今回、三重大学整形外科から新しい治験の案内がありました。 概要としては、慢性的な腰痛で悩んでいる人を対象としています。 そういった方で、 

①18~75歳 

②椎間板が1ヵ所だけ悪い 

③腰痛が3カ月以上続いている 

などが大きな条件となります。 

もし治験に興味がありましたら、当院を受診して下さい。まず、健康保険で腰痛に対する一般的な検査や治療を行います。その中で、治験の募集要項に該当する方で、かつ、治験に興味があれば、説明させて頂きます。最終的に治験参加の意向があれば、三重大学整形外科と相談し、紹介させて頂きます。 

最後に、三重大学整形外科から頂いた、チラシを添えます。参考にして下さい。 

当院は、質の高い医療を心がけるとともに、医学の進歩にも協力するという社会的な使命をもって運営しております。今回は触れませんでしたが、当院独自の研究についてもご協力をお願いすることもあります(当院で行う研究は、薬剤の使用効果などの観察研究が主です)。よろしくお願い致します。